記念撮影は一生の宝物

私も知らなかった写真館でのエピソード

私の祖父母は写真館を営んでいて、そこにはたくさんの家族が記念撮影をしに来ていました。

母は写真館でメイクや着付けなどを担当していたので、私は学校が休みの日は写真館で過ごす事が多かったのを今でも覚えています。写真館には毎年のように撮影に訪れる人や、七五三や入学式などのイベントのときに来る人、それから成人式や結婚式の前撮りだけを依頼する人など、幅広い年齢層の方がお客さんとして来てくれていました。

私が中学生になる少し前、写真館にちょっとオドオドした男の人が来ました。キョロキョロする男の人の対応をしたのは私の母で、話し声は小さくてあまり聞こえませんでしたが母は難しそうな顔をしていました。その人は帰るときに深々とお辞儀をしてお店を出て行ったので、母に「さっきの男の人どうしたの?」と聞くと「とっても素敵なお客様よ」と笑顔で私の頭をなでてくれました。

その後祖父母と何か話をしていましたが、私は気にもせず本を読んでいました。それから2週間後、再びあの男の人が訪れました。今度は子供を連れてきていましたが、大きなかばんを持っていました。

中から3匹の子犬が出てきて、さらに女の人が大きな犬を連れてきました。「わぁー!」と私は声を上げて駆け寄り、犬を触りました。「この犬どうしたの?」と聞くと、「実はね、明日子犬たちは新しい家族のところへ行くの。だから最後にこのお母さん犬のために記念撮影をしようと思ってきたの」と女の人は微笑んでいました。

人間の家族写真ではなく、犬のために家族写真を撮るために来店していたのです。犬にも花飾りをつけ、犬だけの記念撮影が始まりました。夫婦は涙ぐんでいて、その姿をみた私の母がご夫婦も一緒に写るようにすすめました。そして子供たちも含めて記念撮影をしました。

「こんな犬のために写真を撮ってくださってありがとうございました」とお礼を言って深々とお辞儀をするご夫婦に「どんなお客様でも私たちにとっては大切なお客様です」と祖父母はさらに深々と頭を下げていました。祖父母のプロ意識を垣間見た私は、幼心にとてもすごい仕事なのだと祖父母を尊敬しました。

犬たちの写真は後日、飼い主であるご夫婦の分とさらにそれぞれの子犬の飼い主となる人の家庭に贈られました。「子供と一緒で、犬も大きくなったとき、飼い主さんはこの写真を撮ってよかったと思うだろうね」と笑う祖父母を見て、とても幸せな気持ちになりました。